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issue: 193
title: 採用のジレンマ(構造要約)
date: 2025-12
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特集はSection 1(10年変化の診断)→ Section 2(採用バリューチェーン+7社+4専門家)→ Section 3(採用の未来3論点)→ まとめの4層構造。採用を「入り口の手続き」ではなく「入社前から出口後まで、社員ライフサイクル全体を含む営み」として再定義する編集意図。
はじめに(編集長序文, pp.4-5)
- 人手不足常態化、若手離職率上昇、勤続年数短期化、働き方改革、コロナ、グローバル競争力低下の6重ショック
- 採用のジレンマ: キャリア自律×JR、前職経験×自社文化、社外登用×要件充足、幹部高報酬×既存社員公平性
- 採用は採用部門だけのテーマではなく、オンボーディング・育成・評価・キャリア支援を含むライフサイクル全体で問われる
Section 1 採用市場10年の変化(pp.6-11)
① 労働市場: 坂本貴志(リクルートワークス研 研究員/アナリスト)
- 転職率はリーマン後4%台で停滞、流動化はほぼ進んでいない
- 20代の離職率は2020年以降上昇傾向(特に100-999人企業、1000人以上企業)
- 勤続年数短期化: 賃金構造基本統計で45-49歳が17.5年(2000)→14.9年(2023)
- 「課題は大企業中高年の雇用硬直化」
② 求人市場: 津田郁・藤井薫(インディードリクルートパートナーズ)
- 最大の変化は、これまで動かなかった正社員層が動き始めたこと(2018Q1基点で正規→正規が一貫増加、2025Q2は+25万人)
- 20代だけでなく35-44歳ミドル、50代も増加。「35歳転職限界説は過去」
- 労働力調査の正規転職希望者比率: 2010年代後半10%→2022Q4以降15%超
- 若手の就業意識: 「定年まで」20.8% vs 「すぐ退職したい」16.2%(リクルートワークス研)
- コロナ前の2倍の求人件数、DX/GX/SX人材(「X人材」)へのニーズ増
③ エグゼクティブサーチ市場: 古田直裕(縄文アソシエイツ社長)
- 伝統的大企業のCxO採用も珍しくなくなった
- 空白の原因は「氷河期世代」(1990半ば-2000年代前半の採用抑制) — この層が50歳前後で役員候補期
- 企業の対応: ①他社からの獲得(トップ自ら口説く、候補者の関心は「どの会社か→誰と働くか」) ②氷河期採用継続業界(IT・小売)からの採用 ③女性・外国籍 ④40代前半(留学・グローバル経験者)の抜擢
- 海外幹部定着問題: 「権限」の曖昧さが原因
④ 採用勝者: Closed型→Open型組織(津田・藤井)
- 「変化のスピード加速下でClosed(内部完結)型では立ち行かない」
- 7項目の対比(図): 新卒のみ→多様な入り口、企業主導→個人主導、スタンダード→カスタムメード、一様→パフォーマンス、内部公平性→外部公平性、年功序列→成果能力、非日常退出→アルムナイ
- 社内外の「浸透圧」均衡: 評価・報酬・昇進がフェア、内部長居者が得をしない
- 外とつながることで内部人材の刺激にも
Section 2 採用の壁・ジレンマを乗り越える(7社+4専門家)(pp.12-31)
採用バリューチェーンの見取り図(pp.12-13)
6段階のジレンマ:
- 募集職種決定: キャリア自律×適材適所、環境変化対応の母集団形成
- 選考・見極め: 能力パフォーマンス×人格、人事主導中長期×現場主導
- オファー・口説き: 採用時高オファー×既存社員報酬バランス
- 入社・オンボーディング: 個人のアンラーン×組織のアンラーン、早期離職
- 活躍: 適材適所での人材滞留
- 出口: タレントライフサイクルマネジメントの機能不全
企業事例(5社)
アイリスオーヤマ(紺野聡 人事部長 p.14-15)
- 2018年社長交代(大山健太郎→晃弘)でトップダウン→ミドルアップ・ボトムアップへ
- 新規事業(ロボティクス/食品/ヘルスケア) + 主力化する家電/LED に対応し、4職種別採用を2025年新設
- データドリブンワークショップ(大学連携、POSデータを提供し分析)、インターカレッジコンテストSカレ参加
- 人事部長を営業畑出身(40歳)が務める人事畑破壊人事
シスメックス(p.16-17, 28-29)
- 職種別採用と相互マッチングによる配属 — 新卒者のキャリア意識を高める
- アルゴリズムによる配属マッチング — 職種別採用後の具体的アサインをアルゴリズムで実施
オリンパス(p.20-23)
- 経営体制と人事チームのグローバル化 — 「世界標準」の人事制度実装
- 市場優位性のある報酬と挑戦・成長環境の明示
- グローバル採用のために人事・採用機能の国境をなくす
旭化成(p.24-27)
- 採用部門・組織開発部門・管理職・本人の全員参加オンボーディング
- 「アンラーニングセッション」を組み込み、個人と組織双方の学びにつなげる
- 採用・人材育成の連携による丁寧なオンボーディング
セールスフォース・ジャパン(p.28-31)
- 入り口で職種を意思決定させ、入社後はキャリア形成を支援
- 「社員起点」配置、意思の尊重と同時に成長への努力も求める
- 入り口から出口まで社員の活躍と成長を全力で支援
専門家4人
- 小野善生(優れたリーダーの採用): 企業自らの軸を明確にし、対話に臨め。「面接」ではなく「対話」
- 森田純夫(報酬設計): 人材獲得競争時代には市場価値を意識した報酬設計が必要
- 松尾睦(アンラーン): 個人のアンラーンと組織のアンラーンを両立させる
- 石山恒貴(オフボーディング): オンボーディングだけでなく、オフボーディング改革がこれからの採用を強くする。アルムナイの重要性
Section 3 採用の来るべき未来(pp.32-39)
①「採用→アトラクション・才要」(黒田真行・藤井薫)(p.32)
- 黒田: 「採用」は "採集" + "使用"、企業が人を「使う」前提。選ばれる時代にそぐわない
- recruiting → attraction へ: 企業は自らの存在理由を語り、共感する人が集う
- 藤井の提案: 「才要」(才能を要にすえる) — 人の才が企業の要になり、自分の幸福の要が仕事の中にある
② 多毛作化(p.33)
- 従来: 1つの畑を1人で(1社1役)、今: 1社に所属しつつ社外副業・フリーランス・プロジェクト複数参画
- 背景: 賃金停滞以上に価値観変化 — エンゲージメントの対象が会社ではなく自分の成長や社会とのつながり
- 「企業は社員を所有できない、人の能力は共有のフェーズに」
③ 採用の一強多弱(p.33)
- 優秀人材に複数企業のオファーが集中、多くの企業は人が集まらない
- 要因: ブランド力・高待遇ではなく、自社の魅力の自己理解不足。人事・経営が決めつけた「我が社の魅力」が候補者に刺さるかを裏取りできていない
- 「人枯れ倒産」の可能性: 介護・物流・建設などエッセンシャルワークで既に発生
④ ユニフォーミズム→マルチフォーミズム(p.33)
- 藤井: 均一拡大/一中心/会社仕事中心 → 多様循環/多中心/社会人生中心
- 新卒一括採用・終身雇用・同質評価制度のユニフォーミズムは限界
- 人材獲得の多層化(新卒/キャリア/M&A/副業/フリーランス)、タレントアクイジションマネジメント
- 藤井の5要素(働く個人が機会に歩み出す支援): ①安全道路 ②後方支援 ③前進駆動 ④貢献実感 ⑤未来展望
⑤ 雇用を創出する人材ビジネス(p.34)
- 黒田: 人材ビジネスの使命は「雇用の総量を増やすこと」
- 顕在需要の仲介ではなく、潜在的可能性を可視化し企業・人の新しい接点を設計する
- タイミーのスポットワーク例。人余り領域のスキル転化
- 「人をどう集めるかではなく、人が働きたいと思える社会や組織をどう作るか」
AI対談: 後藤宗明(ジャパン・リスキリング・イニシアチブ)× 鎗水徹(阪大OUDX副室長)(pp.35-37)
- 後藤: 日本のリスキリングは自己責任型(欧米は組織主体)
- 後藤の採用基準3つ: 嘘をつかない人、謝れる人、学ぶことができる人
- アクセンチュアのジュリー・スウィートCEO「AI時代にリスキリングが現実的でない社員の退職を進める」(2024)
- 後藤の予測: 人類の働き方3種類 — ①AIを作る人(CTO・スーパーエンジニア) ②AIを使う人(経営者・上級中間管理職) ③AIに使われる人(推論に従って作業実行)
- 鎗水: 阪大で統合IDによる入学前-卒業後の終身サポートプラットフォーム、デジタルバッジで学習実績可視化
- 後藤: 「リスキリングをする組織に優秀な人は集まる。採用強化はリスキリング強化と表裏一体」
- キャリアオーナーシップは上位20%前提のフレームワーク、学びが苦手な人・機会に恵まれない人も巻き込むリーダーシップが必要
TDKの事例: アンドレアス・ケラーCHRO(pp.38-39)
- 2008年エプコス買収を契機にグローバル化、2017年グローバル人財本部をミュンヘンに移転
- 従業員9割近くが海外、約75%が別企業からM&A
- グローバル人財本部メンバー14カ国以上、リーダーの46%女性
- 元駐日ハンガリー大使パラノビチ氏を広報GMに採用(日本で博士、日本語流暢)
- 長期的な適材適所のために1年以上の採用プロセスも(アイルランド人副本部長フィリップ・アーヴィン事例)
- インクルーシブリーダーシップ: 入社側だけでなく受入側にも目配り、"How to embrace"を意識
- 機能対等の風土: 役職問わず対等に意見を言い合う、意思決定までの対話はオープン・透明性高い
まとめ 佐々木貴子編集長「採用のパラダイムシフト」(pp.40-41)
- War for Talent(1997年米で提唱)はベビーブーマー退職とナレッジワーカー需要を背景とした概念
- 日本でもキャリア採用が当たり前化、ダイレクトスカウト・リファラル・アルムナイなど多様化、AI活用
- 採用活動活発化は人材獲得にも社会にも結実していない — 人手不足慢性化、高難度課題(候補者不在・水準不一致・定着難)
- 10年で流動性は10%前後で推移、「失われた30年」が人材成長を阻害、エグゼクティブ人材空洞化
- 「選ばれる側」への主権移動を企業は認識すべき
- 採用勝者は「採用のバリューチェーン」全般で根底の考え方を確立、ジレンマを克服している
- 5社事例の共通項: 募集職種・事業内容・期待値を個人に理解させる機会充実、個人のキャリア志向重視、「ボタンの掛け違い」減
- 4人の専門家からの示唆: ①「面接」ではなく「対話」(小野) ②公平な報酬設計(森田) ③個×組織のアンラーン両立(松尾) ④オフボーディング・アルムナイ(石山)
連載(ダイジェスト)
- ローカルから始まる。 an代表取締役・プロデューサー、立教大客員教授 永谷亜矢子氏
- 人事のアカデミア第35講 ジブリの戦後
- Global View: From USA(シリコンバレー長時間労働), Nordic(フレキシキュリティと解雇リスク), Policy World(給付付き税額控除 vs 英ユニバーサル・クレジット), Work Tech World(AIネイティブカンパニーの事業プロセス)
- 人事は映画が教えてくれる: 『ラストマイル』— 効率主義徹底による人間疎外
- 著者と読み直す: 『過疎ビジネス』
読解メモ
- 「選ぶ側から選ばれる側へ」はw_194「個人の選択を組織の選抜に加える」(武石)、w_195「個の可能性に賭ける」(野田智義)と連続する主権シフト論。通奏低音候補
- 藤井・黒田の「多毛作化」「マルチフォーミズム」は、w_194の横・斜め移動論、w_195の遠心力論と響き合う
- 後藤の「リスキリングと採用の表裏一体」はw_194のリスキリング型JP(ソフトバンク)と直結
- TDKのケラー「インクルーシブリーダーシップ」はw_195の入山章栄論と完全に同型
- 石山恒貴のオフボーディング/アルムナイはこれまでの号でも出るかもしれない横断テーマ
- 3号(193-195)を通じて、佐々木編集長体制の方針は「個の主権の認識+組織の価値観の明確化+両者の境界設計」に一貫
- 「人枯れ倒産」「多毛作化」「才要」など造語が多く、雑誌としての言葉作り志向が強い