2020-09-28
  • データ主導の人材開発・組織開発

【第11回】効果的なフィードバック(多面評価)

『企業と人材』誌(産労総合研究所発行)に、2019年7月号から2020年6月号までの予定で『人材開発部門のデータ活用』を連載しています。誌面だと小さくなる図表を改めて掲載する他、誌面には掲載しきれない参考文献や参考情報を当ウェブサイトにて紹介します(毎月5日の発行日に合わせて公開)。記事本文PDF

 

【図1】 フィードバック用数表・グラフの基本形

 

【図2】 優先課題と行動変化方向性検討のガイド


【データからイメージの形成を促す対話】

連載本文では、優先課題と行動変化方向性を導くようなデータの整理および提示の仕方について、主に述べています。そしてそこから実際に行動変化を起こさせる支援については、最も効果的な方法である「お互いに連携して取り組む」ことを支援する場を設けることについて述べるにとどめています。

さて、優先課題と行動変化の方向性を導きやすいような形でデータを受け取ったとしても、特に初めての場合には、誰もがデータを見てそこからすぐにイメージを形成できるとは限りません。そこで、フィードバックセッションや上司との面談等の機会において、データを前に「対話」をすることでイメージの形成を手助けすることが有効です。

「対話」は「自己との対話」であってもよく、そこで、フィードバックレポートの末尾に、思考のガイドを掲載しておくことも有効です。次のような簡単なものでもかまいません。問いを中心にして思考を働かせることで、イメージの形成を助けることがポイントです。

①どこに顕著な「差」がありましたか?
②どう感じましたか?(How)
③それを一言で表すとどのように言えますか?(抽象化)
④それは具体的にはどのようなことですか?(具体化)
⑤どうしますか?(What)
⑥どうしてですか?(Why)

なお、子供を自発的に勉強させ、成長に向かわせるために親や先生が用いる対話のテクニックは、相手を行動変化に導く効果的なフィードバックに大いに通じることは明らかです。よって、子育てや子供の教育のノウハウは、フィードバックのノウハウとして大いに流用できます。上記の6つの問いへの整理の仕方は、次の書籍を参考にしています。著者の石田勝紀氏は子供の教育の専門家ですが、企業の管理職向けのフィードバック研修でも豊富な実績を持たれる方です。

石田勝紀 『AI時代を生きる子どもの才能を引き出す「対話力」』


【人間心理の傾向に基づくフィードバックのヒント】

個人へのフィードバックから行動変化を導くにあたっては、人間心理の傾向を理解し、活かすことで、介入の効果性が高まります。次の書籍では、人間心理の細かい観察に基づいて、フィードバックにあたって踏まえるべきことが、特に学問的に体系づけられているわけではありませんが、下記の35の原則にまとめられています。やや冗長なリストで再構成の余地がありますが、重要なことが多々含まれており、フィードバックのワークショップ等において、これをヒントにしてアドバイスを提供することは効果的でしょう。

Joseph R. Folkman 『The Power of Feedback: 35 Principles for Turning Feedback from Others into Personal and Professional Change』

他者からのフィードバックを行動変化につなげる35の原則

    1. 我々は他者に意見を求めることで、前向きに行動変化するのであろうという他者の期待を高める。
    2. 我々がフィードバックを受けても行動を良い方向に変えない場合には、フィードバックを受けなかった場合よりもかえってネガティブに受け取られる。
    3. 我々は、自身は変わる必要があると本当に信じていなければ、変われない。
    4. 我々が批判を受けた場合、それを受け入れるよりも、言われたことや、さらに言われた人をも非難する傾向がある。
    5. 認識とはすべて、少なくともその認識を持つ人にとっては、現実のものである。
    6. フィードバックに効果的に対処するには、非生産的な極端な反応に陥らない、バランスのとれた反応が大切である。
    7. 与えられたフィードバックをまず受け入れることから、我々の行動変化のプロセスは始まる。
    8. 他者は我々のことを、我々が自分自身を見るのとは違う見方で見ている。
    9. 他者に持たれている印象を変えるためには、我々は自分の行動を変えなければならない。
    10. 他者はいったん印象を形成してしまうと、その印象と相容れない情報があっても、あまり取り入れない。
    11. フィードバックを提供する人は、自身のパフォーマンスと個性に照らして相手のことを知覚する傾向がある。
    12. 我々は、自分の失敗の原因は状況にあると考え、他者の失敗の原因はその人の努力、能力、知識や性格にあると考えがちである。
    13. 我々が受け取るフィードバックは、他者が我々および我々のパフォーマンスについて本当にどう感じているかを反映している。
    14. スキルを向上させる一つの方法は、そのスキルに隣接するスキルのパフォーマンスを向上させることである。
    15. コミットメントの高さと難易度の低さが両立している場合にのみ、行動変化は容易になされる。
    16. 我々は最初に仕事をマスターしたときのパフォーマンスを、時間が経過してもそのまま保つ傾向がある。
    17. 高いパフォーマンスを発揮していると認められ続けるためには、時間の経過の中で変化しなければならない。
    18. 従業員の満足度やモチベーションに大きな影響を与えためには、「平均」的なマネージャーでは十分でない。
    19. 実施することはどんな小さなことであっても、違いにつながる。
    20. 行動変化の努力に他者を巻き込むことによって、行動変化が起こる可能性が高まる。
    21. フィードバックに基づいて行動変化を起こすための最も重要なスキルは、最初に取り組むべき具体的な問題を特定することである。
    22. 人を扱う課題よりも物事を扱う課題の方が、行動を容易に変えることができる。
    23. ほとんどの人は、改善のためには、自分の強みを生かすのではなく、弱みを取り除く必要があると信じている。
    24. 何かをうまくやることは、効果性を認知してもらうために劇的な影響を与える。
    25. 行動変化の重要なステップは、行動変化を支援または強化するよう、戦略、仕組みおよびシステムを変化させることである。
    26. スキルを発揮している人をよく観察することは、そのスキルを伸ばすのに役立つ。
    27. 受けたネガティブなフィードバックをポジティブに見直すことによって、行動変化へのモチベーションが高まる。
    28. 何か物事を継続的にやり続けることで、物事への想いや欲求は変わってゆく。
    29. 我々が行動を変容させるためには、しばしば自身の信念を変えることが必要になる。
    30. 求められる新しい行動に近づくたびに報酬を与えることで、新しい行動を身につける可能性が高まる。
    31. 自分と一緒に変化するよう他者を説得することで、ポジティブな行動変化の可能性を高めることができる。
    32. 持続する行動変化とは、当人の個人的性格やスタイルに照らして自然であり一貫していると感じられるものである。
    33. 行動変化を永続させるためには、新しいシステムや仕組みの実装がしばしば必要になる。
    34. 特に新しいテクノロジーに関する知識とスキルを高めておくことで、行動変化のへの努力の効果性は高まり、自信も強まる。
    35. 満たしたい欲求があり、力があり、そしてモチベーションがある時にのみ、人生を大きく変えることができる。

【グーグル社の事例を参考にする】

本文中でも言及したように、グーグル社の事例は、フィードバックを組織に根付かせて人材開発と組織開発を促進するイメージを与えてくれます。(第2回の参考文献として挙げた)次の書籍でかなり詳しく紹介されています。

ラズロ・ボック 『ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える』

デイビッドA.ガービン 『グーグルは組織をデータで変える』 DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文