2019-10-16
  • データ主導の人材開発・組織開発

【第4回】調査設計の基本1(ディメンションの設計)

『企業と人材』誌(産労総合研究所発行)に、2019年7月号から2020年6月号までの予定で『人材開発部門のデータ活用』を連載しています。誌面だと小さくなる図表を改めて掲載する他、誌面には掲載しきれない参考文献や参考情報を当ウェブサイトにて紹介します(毎月5日の発行日に合わせて公開)。連載本文PDF(雑誌発行2ヶ月後に公開)

※ 勉強会も適宜企画いたしますので、ご遠慮なくご相談ください。

 

【図1】 ディメンションの雛形と企業の特徴反映

【図2】 ディメンションの設問項目への落とし込み

 

【組織モデルの参照】

今回は、調査項目=設問項目をいかに体系化するかということについて述べています。

ここで本来参照したいのが「組織モデル」です。組織モデルとは、組織がどのような要素から成り立ち、要素と要素がどのように関係しあって、組織の最終目的の達成に至るのかというメカニズムを明らかにするものです。自社のマネジメントが準拠する組織モデルがあれば、その要素を測定し、あるべき姿とのギャップ(=問題)があればそれを是正することで、組織の目的を達成することができる筈です。

◆組織モデルの例として、ナドラー/タッシュマン(Nadler/Tushman)が提唱した、コングルーエンス・モデル(Congruence Model)というものがあります。それは、「組織とは、インプット(環境/資源/歴史)をアウトプット(組織目標達成/資源の開発/業界ポジション)に変換するプロセス(戦略/仕事/人/公式組織/非公式組織)である」というものです。大過のないモデルであり、このモデルに基づいて調査項目を分類・体系化する、ということも一つの方法です。このモデルについては、提唱者による次の書籍の中で「組織行動の整合性モデル」として解説がなされています。

デーヴィッド・A. ナドラー、マイケル・L. タッシュマン 『競争優位の組織設計』

◆さて、全ての組織モデルは、組織論の始祖とされるチェスター・バーナードが1938年に著した、『経営者の役割』にまで遡ることができます。

C.I.バーナード 『経営者の役割』

バーナードの組織論は、組織を「意識的に調整された2人またはそれ以上の人々の活動や諸力のシステム」と広く定義した上で、組織の要素を「コミュニケーション」「貢献意欲」「共通目的」の3つに整理するものです。マクロ(組織全体)の視点とミクロ(個人)の視点を絶妙なバランスで統合し、経営管理者の役割がいかに高潔なものでありうるかということにも気づかせる味わい深い論ですが、ビジネスや社会科学の書というよりは哲学書のような記述の仕方が難解で、また、具体的な測定項目へのブレークダウンまではなされていません。

◆私自身、バーナードの組織論を骨格として借用し、IT基盤を前提とする組織マネジメントの論点の体系化を試みたことがあります。(測定項目へのブレークダウンまでは行っていません。)

南雲道朋 『多元的ネットワーク社会の組織と人事』

◆ここで今にして気づくと、バーナードの組織論を換骨奪胎して1980年代に蘇らせ、世界的なベストセラーとしたと言える書籍に、次があります。

トム・ピーターズ、ロバート・ウォーターマン 『エクセレント・カンパニー』

この本は、所謂「マッキンゼーの7S(Strategy, Structure, System, Shared Value, Skill, Staff, Style)」と呼ばれる有名なフレームワークを紹介した本としても知られています。戦略コンサルタントが優良企業の共通要素をお手軽なフレームワークにまとめただけの本のように思われた節もあったように思いますが、実際には、組織論の最先端の論者や議論を時間と費用をかけて渉猟し、議論を重ねた結果の労作であることが、著者らによって振り返られています。この本の中で、チェスター・バーナードへの言及は、数えてみたところ25箇所に及んでおり、「チェスター・バーナードが一九三八年に出した『経営者の機能』は、おそらく経営理論として完全なもの、と呼ぶに値しよう」とすら述べられています。

確かに、7Sフレームワークは、バーナードの組織論と同様、マクロ(組織全体)の視点とミクロ(個人)の視点をバランス良く含む包括的なフレームワークとなっています。一方、7Sフレームワークにおいては7つの要素全ての間に影響力を表す線が引かれており、すなわち逆に言えば、7つの要素の相互関係/構造についてはほとんど語られていません。よって、組織モデルというよりも、相互に独立した評価軸=ディメンションとして見る方が妥当です。そしてディメンションとして見ると、本連載で提案している、「組織を評価する万能のディメンションの雛形」とも整合性があります(その中に位置づけることもできます)。7Sフレームワークを組織評価のディメンションとして再発見し、調査項目に落とし込んでもよいかもしれません。

(なお残念なことに、上記『エクセレント・カンパニー』の中で、7Sフレームワーク自体の解説はなされておらず、提唱者自らの言葉で理解するためには、次の論文(英文)を参照するしかないようです。)

https://managementmodellensite.nl/webcontent/uploads/Structure-is-not-organization.pdf

 

◆さて、経営学史を振り返ると、バーナードの組織論を嚆矢に、様々な組織理論が提案されるようになりますが、特定の物の見方で全てを説明しようと試みる「パラダイム」性が強いものになってゆきます。次のような様々なパラダイムが提案されてゆきました。

  • 機能(構造機能主義)
  • 情報処理過程(情報処理論)
  • 環境適応過程(システム論)
  • 進化と変容の過程(生物学のアナロジー)
  • 取引費用最小化(経済学)
  • 人間関係
  • ・・・

しかし、特定のパラダイムに基づく現状分析は、そのパラダイムに基づく問題解決方法を導くものになるため、特定の物の見方に偏らずに自社独自の調査を開発するための雛形としては適切ではなくなってきます。(その中で、先述したナドラー/タッシュマンのコングルーエンス・モデルは、上記の中ではシステム論に依拠しつつ、モレがなく偏りも感じさせないものになっていると言えます。)
パラダイム性の強い組織モデルに基づく組織研究の代表的な日本語文献として、次の書籍があります。

野中郁次郎、加護野忠雄、小松陽一、奥村昭博、坂下昭宣 『組織現象の理論と測定』

その後の経営学会の重鎮となった、当時気鋭の先生らがチームを組んで、包括的な組織モデルを打ち立てるとともにその測定尺度をも開発することを企図した、野心的な研究書です。1978年に刊行された書籍ですが、2013年に新装版が出されており、すなわち、本書は日本の経営学会における組織論研究の一つの到達点であった一方、その後の目覚ましい発展はなかった、ということを示しているとも言えます。当時主流だった「コンティンジェンシー理論(環境適応理論)」のパラダイムに基づきつつ、それではカバーできない要素を加えて、マクロ(組織全体)レベルからミクロ(個人)レベルまで包含できるフレームを打ち立て、学術研究をサーベイしながら、測定尺度開発にまで踏み込むことが企図されているものですが、各論の集まりを超える統一感までは得られず、包括的な調査項目に落とし込むための道程はまだ長いと感じられます。逆に、多元的な現象である組織というものをとらえることがいかに難しいかを理解させられます・・・

 

【ディメンションに基づく調査項目の体系化】

以上から、本連載では、要素を関連づけた組織モデルを選んでそれに依拠するよりも、相互に独立した評価軸であるディメンションに基づいて、組織の評価項目を洗い出すことを推奨しています。つまり、「組織モデル」と「組織の評価項目」とは分けて考えるべき、ということです。要素がどのように関連しあって組織目標の達成につながるのか、という「メカニズム」については、調査結果データが集まってから、データに基づいてモデル構築を試み、検討すればよいのです。それによってかえって、データを虚心に見て、問題・課題と改善に向けてのストーリーを考えることができます。そして、自社の状況にふさわしい、独自のセオリーを得ることができます。(本連載では第10回で扱います。)

そして組織評価のディメンションとして、本連載では、

  • 「人(ミクロ、個) ⇔ ビジネス(マクロ、全体、組織、業務)」
  • 「将来(長期) ⇔ 現在(短期)」

の2軸の組み合わせの中に位置づけられる4象限を、組織の評価においても人の評価においても適用可能な、万能のディメンション雛形として推奨しています。このディメンション雛形を推奨するのは、幅広い評価項目で組織や人を評価し、その結果データに基づいて「因子分析」等を行い、評価項目の集約を図った時にはこの2軸が浮かび上がってくることが多く、かつこの2軸は経営の成果の分類とも結びつけやすいからです。

◆これと同じ2軸を、評価項目体系化の軸としてはっきりと提唱している論者がいます。HRの機能および役割強化を提唱するグルとして名高い、Dave Ulrich教授です。次の書籍において、この2軸に従って、それまで世の中で提案されてきた様々なリーダーシップモデルを整理・統合し、統一理論を作る試みがなされています。(日本語訳されていないのが残念です。)

Dave Ulrich、Norm Smallwood、Kate Sweetman 『The Leadership Code: Five Rules to Lead by』

リーダーが備えるべき行動特性、すなわち所謂リーダーシップ・コンピテンシーを整理しているものですが、リーダーが組織にもたらすべき成果に着目して分類・整理しているため、組織が備えるべき特性の整理としても転用できます。

(2009年の刊行から10年経ったことを踏まえ、経営環境変化に伴い求められるリーダーの行動の変化を捉え、次のようにバージョンアップ(増補)されています。)

What Makes an Effective Leader? Leadership Code 2.0

 

【ビッグファイブはなぜ5つの因子にまとまるのか】

本連載では、2軸で構成される4象限のディメンションに加えて、もう一つ、「根本価値や基本姿勢」に相当する第5のディメンションを立てることを推奨しています。5項目にまとめた評価軸の例として、「トヨタウェイ」やその原点となる「豊田綱領」を例示していますが、5項目というと、心理学で言うところの「ビッグファイブ」を思い浮かべる方も多いでしょう。

ビッグファイブとは、心理的特性(要するに性格)はつまるところ5項目にまとめることができる、という心理学会のコンセンサスと言われるものです。性格の分類については過去にあらゆる理論が提唱されてきたものの、データを収集して「因子分析」手法でまとめてみると、なぜか、5つの因子にまとまるというのです。そして、5つの因子とは、調査の母集団やその文化的背景によって若干のニュアンスの違いはあるものの、概ね次の単語で形容できる5つであるというのです。ただし、この理論の肝は「統計分析をすると5つにまとまる」ということだけであり、「なぜ5つなのか」「5つの因子の本質的な意味内容は何なのか」ということには触れられません。

  1. 外向性
  2. 精神的安定性
  3. 経験への開放性
  4. 真面目さ
  5. 協調性

◆そのあたりの事情や感覚については、次に詳しく述べられています。後者のダニエル・ネトルは、ビッグファイブという大きな幹をクリスマスツリーのように使って、これまで自分が見出してきた心理的属性をぶらさげて整理している、という趣旨のことを述べており、それは、組織や人の評価項目を洗い出して体系化する時のセンスにも通じます。

村上宣寛 『性格のパワー 世界最先端の心理学研究でここまで解明された』

ダニエル・ネトル 『パーソナリティを科学する―特性5因子であなたがわかる』

さて、では、これら5因子の本質は何なのでしょうか?ダニエル・ネトルによれば、進化生物学や、近年MRIで明らかになってきた脳神経の構造で説明する動きもあるということです。しかし私は、脳や神経系の構造というよりも、むしろ外界の構造(客観世界のカテゴリー)を反映しているのではないかと考えています。よってそれは普遍性を帯び、人や組織を評価するディメンションの構造ともパラレルなのではないか、と。実際、次のように解釈・整理することで、それぞれの因子の持つ「意味」や「価値」がよくわかります。