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マネジメントサイクルの高速化と虎バター

マネジメントというと、マネジメントサイクルすなわちPDCA(Plan-Do-Check-Action)がイメージされる場合が多い。だが、マネジメントとは本来「経営」であるとすれば、PDCAはマネジメントのほんの一部分でしかない。確かに、PDCAはマネジメントのある側面をきれいに整理するものであり大変に便利であるが、もっとマネジメントの真髄に迫った上で、その内容を整理できないだろうか?

虎バターというものをご存知だろうか?4匹の虎が、お互いに食べてやる、と木の周りをぐるぐるとお互いに追いかけ回して、スピードをどんどん上げて超高速で回った結果、だんだん、どれが足でどれが頭かさえ見分けがつかなくなり、ついには溶けてバターになってしまい、そのバターでおいしいホットケーキがたくさん焼けました、という、かつて大変よく読まれた童話(ちびくろさんぼ)に出てくるお話である。

近年、マネジメントのPDCAサイクルを高速で回せ、ということがよく言われる。IT化の進展とともに市場や組織で起こっていることをリアルタイムで把握できるようになったことが背景にある。さて、ではPDCAサイクルを超高速で回したら、どうなるであろうか?「まずPlanだ」「次にDoだ」「そして結果が出たらCheckだ」「そして次のActionだ」というステップやら段階やらはなくなってしまい、虎と同じくついには溶けてバターになってしまう筈である。

高速PDCAサイクルということを言うのならば、その帰結として溶けて出来上がったバターはどのようなものかという観点から、PDCAに代わる新しいマネジメント観が示されても良い筈だ。それは上質なバター、すなわち上質な経営がなされた会社で働く私たちの姿そのものを示すものになっている筈だ。

アルダーファのERG理論という理論がある。それは、マズローの欲求5段階説を元に、その後の実証研究を踏まえて、人間の欲求を3つに集約したもので、まとめると次のようなものである。
●存在(Existence) = 生計を得る居場所が与えられていること。
●関係性(Relatedness) = 顧客や他の社員と社会的な関係が築けていること。
●成長(Growth) = 自己の成長を実感できること。すなわちチャレンジ、イノベーションに参画できていること。

PDCAというとどうしても業務のマネジメントに重きが置かれてしまうが、そうではなく、マネージャーが部下との信頼関係を築くことができているか、という側面からマネージャーのマネジメント行動をチェックしたい・・・というお題をお客様からいただき、上記E・R・Gの着眼点に基いてチェックリストを作ってみたことがある。

すると見事、マネジメント行動を漏れ無くカバーできるチェックリストができあがった。しかも、その中にはPDCA、すなわち、将来への計画も、顧客関係やチームの構築も、計画の実行と成果の刈り取りも、振り返りと学びも、全て含めることができた。

しかも、それの良いところは、部下一人ひとりの視点に立って、部下一人ひとりのE・R・Gの観点から、誰に関して何が不足しており、従って何をする必要があるのか考えることが促されることだ。すなわち、部下の成長を考えることが促される。かつ、「まずPlanだ、次にDoだ、そうしたらCheckだ、そしてActionだ」という時間軸は不可欠ではなく、全ての感覚を働かせて部下の状態を見て、今部下にはどこが不足しているのか瞬時に判断すれば良い。

かくして、「マネジメントが目指す最終的な状態」のイメージを元に、マネジメント行動の圧縮されたチェックリストができあがったが、最終的には、マネジメント行動の振り返りはチェックリストに依るのではなく、部下やチームの状況の香りで一瞬で判断する、というのが理想であろう。部下一人ひとりが、生活の安心感から、仲間との親密感から、自己成長感までバランス良く保ち、トータルに健康な状態である場合には、チームは美味しいバターのような良い香りを放っている筈なのだから。

 

南雲 道朋