2019-10-16
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起承転結というロジカルシンキングの秘技

物事を自ら考え、それをまとめ、文章にし、あるいはプレゼンにし、人に影響を与えることができる・・・そのような人の割合は、必ずしも高くはありません。

最近自分が買ったものを振り返り、その中から人にお勧めしたいものを選び、人にも買ってもらうためのプレゼンをしてみよう、というプレゼン研修のお題があります。相手の関心を喚起しながらロジカルに説得することは決して簡単なことではありません。しかしこれができないと稼ぐ人にはなれません。よって、そのような思考、文章、プレゼンの基礎力は、社員に早い段階で身につけていただくべき能力になります。

実は、ある作法さえ踏めば思考ができる・・・そのような作法があります。

それは、まず「発散」させてから「収束」させる、ということです。まず思いついたことを数多く書き出し、次にそれを整理する。発散と収束を経ることで、例えば「私が最近買ったこの靴をあなたにもお勧めする理由」といった箇条書きのリストができあがります。かくして、ビジネス文書のセオリーどおり、結論をまず述べて次に理由を説明する、その準備が出来上がります。

さて、しかしそれだけでは魅力的な文章にもプレゼンにもなりません。結論と理由をツリー構造で述べるだけでは、例えばこのコラムにもならないのです。考えを人の腹に落ちさせるためには、別の何かが必要なのです。その何かとは何なのか?

実は、それは「起承転結」ではないかと考えています。

ロジカルシンキングの教科書に「起承転結」ということは出てきません。ロジカルシンキングは欧米由来ですが、英語には何故か、起承転結に相当する言葉がないのです。

しかし、起承転結が欧米においてもいかに普遍的か・・・聖書の物語にしても起承転結です。あるいは音楽。バッハのゴールドベルク変奏曲というクラシック音楽を代表する曲がありますが、(詳細は省きますが)全ての曲が32小節から成り立っていて、全ての曲が起承転結の構造を備え、しかも、さらにそのパーツ毎に起承転結になっており、さらにそのパーツも・・・と起承転結が3重の入れ子になっているのです。そのことに気づいた時には驚き、起承転結という作法がヨーロッパには古くからあるのかと思って少し調べてみたのですが、やはりなぜか、それにピタリと該当する、論理学や修辞学の用語が見当たらないのです。実に不思議なことですが、日本語にはその概念があることは、幸いであると言えるでしょう。

人に伝えるためにはストーリーを作れということがよくよく言われますが、ストーリーとは起承転結のことであると言ってもよいのかもしれません。

もっとも、ビジネス文書の原則として、「起承転結はだめで、結論から書け」と言われることもあります。その場合には、次のように考えれば、結論から書くことと起承転結とは矛盾しないことになるでしょう。

  • (起)結論 → (承)理由 → (転)予想される反論 → (結)なお正しい理由

さて、起承転結の構造を備えるべきものは文章にとどまりません。起承転結になっていないコンテンツは人に伝わらないのであれば、起承転結で説明できない人事制度は機能しない、と考えることもできます。キャリアも、起承転結で説明できないと腹に落ちないのです。

専門職制度がなかなか有効に機能しない、ということもそのような側面から理解できます。

マネージャーキャリアの説明は、次のように概ねキャリアの起承転結が明快なのですが、

  • (起)実務を身につけ → (承)指導的な立場に立ち → (転)幹部への昇格試験を受けて経営側に視点を移し → (結)全社視点で部門をまとめる

専門職キャリアの説明は、「職業人生を通じて専門性を深めていって欲しい」ということだけで、メリハリも起承転結もないケースが多くはないでしょうか。専門職キャリアにも、例えば次のように何としても起承転結を組み込む必要があります。

  • (起)実務を身につけ → (承)指導的な立場に立ち → (転)他のもう一つの専門性を身につけ (結)組み合わせで価値を生む

そして最後に、私達の人生そのものも、その意味が私達自身の腹に落ちるためには、起承転結で語れるものである必要があるのでしょう。

 

南雲 道朋