• データ主導の人材開発・組織開発

未開時代の人事コンサルティング

【情意考課の世界】

日本の人事では、「人事考課」が行われてきた。それは社員の総合力を評価し、序列をつけるためのものであった。評価の視点は、規律性、協調性、積極性、責任性・・・等を見る情意考課、そして、判断力、企画力、折衝力、指導力・・・等を見る能力考課。長期終身雇用の慣行の中で、社員の総合力を評価し、序列をつけることが重要であることは今でも変わりなく、情意や能力の概念は日本の会社で人を語る際に用いられる伝統的な言語に基くものであり、現在の人事制度の中にも残っていることは、しばしば確認できる。

 

【コンピテンシーへの進化】

だが、ある時に、「情意考課」「能力考課」の世界は進化した。「コンピテンシー評価」の世界に。それは、人物ではなく、見える行動事実を評価しようとするものであった。業績につながる要素をできるだけ因子分解して評価しようとするものであった。しかしそれは、「情意考課」「能力考課」と本質的に異なるものにはならなかった。表現こそ、「成果への執着」「優先順位づけ」「逃げない姿勢」等、より具体的に、より業績向上への課題に即したものになったが、それによって人事の質が根本的に進化するまでには至らなかった。従来は評価の網にかからず埋もれていた人材がこれによって発掘されるようになった、ということにまでは至らなかった。

 

【能力軸の実証】

今は実証的に知っている。リーダーシップには、大きく「先導して引っ張る力」と「皆を後押しする力」とがあることを。あるいは、人の付加価値には、「人間関係を構築する力」と「知識を創造する力」とがあることを。そして、「ネットワーキング力」は、また別の「第3の力」である場合が多く、別の担い手によって担われる場合が多いことを。一言でチームワークと言っても、「役割分担を仕切る力」と「助け合いを促進する力」とは異なることを。だから、それぞれの軸で最適人材を見つけ出して、人材を組み合わせるべきことを。

それがわかるようになったのは、360度評価を通じて得られるようになったデータを統計分析するようになってからである。データによって、コンピテンシーの概念の切れが良いのか検証する。より切れの良い切り口を作ってみる。人材を2つの軸でマッピングしてみる。(切れの良い軸であるほど、一人一人の組織の中での位置づけはより鮮明に浮かび上がる。)そして、評価軸を改善する。

たかだか10年ほどの間に、ITの進化のお陰で人事も様変わりした。だが、まだもどかしさは残っている。たかだか、分類がきれいに整理されただけではないのか?

 

【真に成果につながるかの実証】

人材能力のデータを、実際の「結果データ」、すなわち業績データとぶつけると、さらに研ぎ澄まされた世界が浮かび上がる。

営業業績データと360度評価データとをぶつける機会を得たことがある。その結果は興味深いもので、営業業績と直接の相関がある行動は「顧客の購買可能性の判断」であり、それ以外の行動とは直接の相関は見い出せなかった。そうであるならば、「顧客の購買可能性をいかに判断するか」という点に絞って営業のトレーニングを行えば良いことになる。

あるいは、業績データではないが、早く昇格していく人の特徴を360度評価データから分析・抽出したことがある。そうすると、早く昇格する人の特徴はひとえに、「先を読んで動く力」「長期的視点で考える力」に秀でていることであった。そうであるならば、登用される人になるためには、今日の行動がどれだけ先のことを考えての行動なのか、どれだけ先の目標に紐付いているのか、ということを自問自答し、その点を改善すれば良いことになる。

 

【あらゆるデータを関連づける時代へ】

まだ、そのような「結果データ」を常に得られるわけではない。データがそもそも整理されていなかったり、営業のデータが人事部門に出てこなかったりといった組織の壁もある。

しかし、実際にはデータは存在している。今どき、業務管理システムの中に日々のデータがある。もしそのデータを人事データとぶつけて活用することが当たり前になったならば、どれだけの示唆が得られることか!日々の行動を考える枠組みが、人を見る眼が、どれだけ研ぎ澄まされることか!そのようになる時代は、すぐそこに迫っている。

今、10年前やっていたことを振り返って、未開時代の人事コンサルティングであったと思うように、10年後には、今やっていることを振り返って、未開時代の人事コンサルティングであったと思うのであろう。

 

南雲 道朋