2020-07-10
  • データ主導の人材開発・組織開発

多面評価の評価品質をいかに高めるか - 回答画面設計の重要性

多面評価(360度フィードバック)を、単なる人材開発のツールとしてではなく、戦略的人事および人材開発・組織開発のインフラとして位置づけるにあたっては、「評価の品質を確保する」ことが最も重要なテーマとなります。そのことは、先に紹介した教科書でも強調されており、多くの紙数がそれに関連したテーマに割かれています。

 

評価の品質とは一般的に言って、評価の「妥当性(評価すべきものを的確に評価できていること)」および評価の「信頼性(たまたまの偶然の結果ではなくもう一回評価しても同じ評価結果になること)」から成るものとされます。多面評価結果とはあくまでも評価者の「主観的な判断」に基づくものであり、それが客観的な真実を現しているかどうかということに拘る必要はそれほどありませんが、評価者一人ひとりが、自分なりの納得感(妥当性)をもって、ミスやブレが発生しにくい安定感(信頼性)をもって、回答できているかどうか、ということについては、おおいに拘る必要があります。

 

「評価品質確保」に直接影響を及ぼす事項として、「評価者選定」「評価者の訓練」「回答画面設計」等があります。その中で、一般の教科書や書籍・文献でほとんど取り上げられていないものが、「回答画面設計」です。「画面のデザイン」という、個別性・具体性が高いものであることが理由でしょう。(現在私が『企業と人材』誌に連載中の『人材開発部門のデータ活用』でも取り上げませんでした。)しかしそれは、「評価品質確保」「評価対象者および評価者の満足」「多面評価プログラムへの信頼」そして「組織の中への多面評価の定着」に大きな影響を及ぼす重要なテーマであることから、ここで取り上げたいと思います。

 

回答画面のデザインによって、評価者すなわち回答入力者にとっての「負担感」「納得感(妥当性)」「安定感(信頼性)」は大きく影響を受けます。

 

まず、負担感。多面評価では、一人の評価者が何人もの対象者を評価することは普通です。特に組織全体として、中間管理職だけでなく複数の階層にまたがった対象者に対して行う場合には、中間管理職は、上司の評価、同僚の評価、部下の評価・・・と、10名以上の対象者のことを評価しなければならないこともざらに起こります。一人の評価のために(自由記述回答も含めて)15分かけるとすれば、10名の評価のためには、単純計算で150分、すなわち2時間半かかることになり、それは忙しい現場にとってはなかなか受け入れがたい負担でしょう。
かつこれは金銭的にも大きなコストです。評価者の一時間あたりの人件費を2000円と仮定すれば、2時間半ということはすなわち5000円の時間コストをかけて評価を行うことになります。そのような評価者が100人いたとすれば50万円、大企業で1000人いたとすれば500万円の時間コストです。

 

そして、回答の負担感は、評価品質への脅威ともなります。回答をしながら根気が続かなくなり、評価が徐々にいい加減なものになっていったり、判断の基準にブレが生じるようになったりする、ということは十分に考えられることです。

 

また、負担感を抜きにしても、評価した内容に間違いがないかチェックしたり、評価対象者間や設問間で比較して評価の妥当感をチェックしたり、といったことが容易にできるようになっていないと、評価者はとりあえずの評価を行ったまま「登録」や「送信」ボタンを押して評価を完了させることになってしまい、評価者にとって最善の品質で評価をした、という実感が得られなくなります。

 

回答画面の設計によって、これらを大きく改善することができます。以下順を追って説明します。
評価対象者が10人、設問が30問、評語が5段階の場合、延べ1500個の選択肢を画面に配置する必要があることになります。そしてそれら選択肢は、「評価対象者」×「設問」×「評語」の3次元の空間に位置づけられるため、それをいかに2次元の回答画面に落とし込むか、ということが問題になります。

【パターン1】 何回かのアンケートに分けるのであれば、一般的に普及している汎用のアンケートシステムを、多面評価の回答システムとして用いることが可能です。例えば、10名を評価するのであれば、10回のアンケートに答える形式とするのです。

しかし、問題としては、回答に大きな負担がかかったり、回答を続ける中で判断の基準が変化していったり、10名分の評価を並べて比較することができないため評価結果を全体的視点からチェックすることが難しかったり、ということがあります。やはり、1回のアンケートにまとめたいところです。


【パターン2】 10名分の評価を1回のアンケートにまとめる方法として、「評価対象者」および「設問」については回答画面に表示し、一方「評語」については画面上に直接表示せずドロップダウンリストとして表示する形にすれば、1回のアンケートの中に収めることができます。

しかし、問題としては、マウスでドロップダウンリストを表示させて選択する行為を繰り返すことには負担がかかり、選択ミスも起こりやすくなるということがあります。(もっとも、全設問標語が一律であることを前提に、数字キーで入力できるのであれば、入力負担はかなり軽減されます。)また回答した結果、入力した選択肢の番号が画面上に並ぶことになりますが、それを一覧して、入力ミスがないか、また相互に比較検証して妥当でない評価をしていないか、チェックすることは必ずしも容易ではありません。入力負担をさらに軽くし、かつ回答結果の一覧性を高めたいところです。


【パターン3】 そこで、「評価対象者」「設問」「評語」を、入れ子の形で画面上にレイアウトする方法があります。下図は、私が理想形として設計した多面評価システムの画面イメージです。(株式会社トランストラクチャの「360度診断」の回答システムであり、当画面イメージは同社のパンフレット等で公開されています。)

この方法により、マウスに触ることなく、矢印キーを用いてカーソルを動かしていくだけでスピーディに回答でき、入力作業そのものにかかる負担感はほぼゼロとなり、評価そのものに集中できます。また、回答内容を一覧してチェックすることも容易となります。それにあたり、表示形式を、「評価対象者⊃設問」と入れ子にするか、「設問⊃評価対象者」と入れ子にするか、ボタンひとつで切り替えられるようになっていれば、一層チェックは容易でしょう。

また、このレイアウトの方式であれば、評価対象者によって設問の範囲が異なる場合にも対応させることが可能になり、一部の対象者(例えば対象者が管理職である場合)においてのみ問う設問を設けたり、フォローアップ目的で多面評価を繰り返す場合に評価対象者にとって重要な設問だけに絞ったり、といった運用を、そのまま回答画面に反映させることができます。

以上のような回答画面設計のバリエーションを踏まえながら、多面評価のシステム面を支援するパートナー企業/ベンダーと、可能性や代替案を積極的に話し合うことをお勧めします。