• データ主導の人材開発・組織開発

凝った分析は要らない

そもそも、沢山のデータを集めて分析することが必要になるのはプロセスが不明瞭、すなわちブラックボックスになってしまっているからであるとも言える。あとから凝った分析が必要にならないようにプロセスを明快に組み立てることが重要である。

トヨタの車の品質が高いのは、膨大なデータを分析して品質向上の鍵を突き止めているからであろうか?そうではない。トヨタ生産方式では全ての工程、作業が標準化され、決まったタクトタイム(一つの工程にかける時間)の中で一個流しされているので、もし不良が出たり作業時間がタクトタイムから外れるようなことがあれば、その場でラインを止めて、五感を働かせて現物をよく見て原因を突き止めて改善を行い、新しい作業標準に反映させるだけとなる。車が完成してしまってから膨大なデータの分析を駆使して原因の森に分け入っていく、ということの正反対だ。

あるいは、日本電産の永守会長がM&Aした企業の業績を急速に立て直すことができるのは、その企業のあらゆる操業データを手に入れて独自の手法で分析を行い、それまで隠れて見えなかった業績向上の鍵を明らかにすることができるからだろうか?そうではない。まず徹底して出勤率と6S(整理、整頓、清掃、清潔、作法、躾)を向上させるからである。その指標が60点を越えると黒字化、80点を越えると最高益になるのだという。

ある意味、トヨタ生産方式も、永守会長の手法も、凝ったデータ分析を必要としないための手法であると言えるかもしれない。

同じことが人と組織のデータ分析についても言える。人事にもビッグデータ時代が来ることは間違いない。出勤データ、仕事の成果データ、アセスメントデータ、評判データ、メール送受信記録データ、健康データ、さらには生体データに至るまで、ありとあらゆるデータを用いて人や組織のパフォーマンスを予測するようになる時代が来るだろう。

だがそもそも、これまでの業績の経緯(トラックレコード)がしっかりと把握できているのであれば、将来予測に苦労することはそれほどない筈である。これまで目標を達成できてきた人であればこれからも目標を達成できる蓋然性は高いし、そうでない人は逆となる。

社員一人一人が、年次、四半期、月次、あるいは週次の単位において、前年比何%アップの目標に向けて仕事を行い、それを何%達成してきたであろうか?単位時間あたり何時間の労働を投入し、何件の訪問を行い、何件の提案を行い、あるいは何件の論文を出してきたであろうか?・・・まずはそういったことを見える状態にすることが、データ分析の先に来るべきことになるだろう。もちろん、目標達成度の変動の背景には、環境の変化や難易度の変化があるが、その点をじっくりと明らかにし擦り合わせるためにこそ目標管理のプロセスがある。

あるいは、自分自身のパフォーマンスを高めるために、自分自身にセンサーを装着して、食事データから運動データから動作データから脳波・脈拍等の生体データに至るまでデータを収集してビッグデータ分析にかけてみることも一つの方法ではあろうが、まずは毎日目的を持って生きること、そしてその日にやろうとしたことができたかどうかをチェックすること、規則正しい生活をすること、その中で感覚を研ぎ澄ませること、そのために注意を向ける対象を決めること(例えば武道家のように自分の呼吸を意識する)、といったことが重要になるのではないか。

ビッグデータの前に、やるべきことは多い。

 

南雲 道朋