• データ主導の人材開発・組織開発

社会善の追求が業績向上への近道となる背景

「社会善」への想いを示しているリーダーほどリーダーとしてのパフォーマンスが高い。「社会善」を理念として浸透させている会社ほど会社としてのパフォーマンスが高い。つまり、「社会善」を突き詰めることが、人と組織のパフォーマンスを高めるための近道である。・・・ということはどうやら確かに言えるようである。

この背景には、グローバルな環境の中で企業が置かれている状況がある。グルーバルな視野の中で見た時、企業活動の負の側面が人類の存続を危うくさせている面が確かにあり、「持続可能な成長」を担保しなければ企業の存続が許されなくなりつつある、ということがある。また、グローバルな環境の中で文化も価値観も違う人々を引き寄せ、その力を結集するためには、明快な共通の「大義」が必要である、ということもある。

しかし、グローバル、というようなことを言わなくても、国内の今この組織の中を見た時にも、「社会善」がパフォーマンスの鍵である、ということは確かに言えるようである。数字を作るゲームにコミットし、自ら数字を上げ、周囲にも数字を上げさせ、それを元手にさらに大きな仕事をしてゆきたい、と心から望み、そのために知力・体力・気力を振り絞る人材こそがハイパフォーマーとなり、中核マネージャーとなり、企業組織の「骨格」となることは間違いない。だがそのような人材は多数派ではない。企業組織の「血」となり「肉」となる多数派のメンバーは、必ずしも数字のゲームにコミットしているわけではない。今、経済成長が様々な問題を癒やす鍵であるとしても、経済成長が国民のコンセンサスであるとまでは言えない。多数派のアジェンダに従って人をドライブしていく必要があるのだ。

「自らのキャリアにおいて何に拘っていきたいか」ということを8個の選択肢の中から選んでもらう設問がある。言い換えれば「自らの会社人生のアジェンダ」、所謂「キャリア・アンカー」を聞くものだ。多くの場合、拘りが多い順位は次のようになる。
【1位】顧客や社会に奉仕・貢献すること
【2位】公私をバランスさせること
【3位】自らの専門性を高めること
・・・

もちろん、組織の中での立場や年齢や性別によっても傾向は異なるが、組織全体で集計すると多くの場合、上記のような順位となる。経営者が望むような、「責任あるポジションに就きたい」「起業家的創造性を発揮したい」という人は少数派なのだ。たとえキャリアの初期においてそのような願望を持っていても、自らの昇進可能性や事業に対する才能を悟った人は、別の願望に転化させていってしまうから、結局少数派になる。

そしてさらに、「どの拘りが実際に満たされているか」ということも併せて問うと、「顧客や社会に奉仕・貢献すること」が比較的満たされている度合いが高くなる。すなわち、「顧客や社会への奉仕・貢献」を目的とし、それを果たすことができている、ということで日々の会社生活に納得し、モチベーションを維持している、というのが企業組織の多数派であるとも解釈できる。

だから、なのであろう。管理職として優れていると見なされている人はどのような人か、ということを360度評価結果から分析すると、「顧客や社会に奉仕・貢献する使命感を持っている人」ということが筆頭に来る場合が多い。

もちろん、組織によっても異なるが、今の日本の企業組織の全体的な姿はそのようなものなのだ、とデータを繰り返し見ながら思うようになった。

そうであれば、顧客や社会への奉仕、すなわち企業活動を通じての「社会善」ということを徹底的に突き詰めた方が良い。突き詰める手段はある。そしてそれを社員一人一人の会社人生のアジェンダに沿って、社員一人一人の腹に落とす手段もある。その手段を一つ一つ起動する中で、「社会善」を追求し、かつそれを社員一人一人の血肉にする会社のマネジメントサイクルやスキルやコンピテンシーが明らかになっていくわけだが、まずは「社会善」への意思がなければ始まらない。そのような意思を中核に据えて組織像や人材像を浮かび上がらせてゆきたい。

 

南雲 道朋