【定番の統計手法】
データどうしの関係を分析することで、どうしたら「望ましい状態」に近づけるか、すなわち、何に梃入れしたら会社の業績は上がるのか、あるいは社員のモチベーションは高まるのか、・・・といったことを明らかにしていくことができます。
データどうしの関係を分析する手法として、次のような定番の統計手法があります。現代のAI、機械学習においても、これらの手法は基礎となっています。(なお、これらの手法の意味を直感的に理解するためには、手法名を検索してみて画像の検索結果を見ることがお勧めです。)
・相関分析 (関係の強度を分析する)
・回帰分析 (関係の大きさを分析する)(その際に関係の強度も合わせてチェックする)
・重回帰分析 ((沢山の要素の)関係の大きさを分析する)
ただし、これらの統計手法を用いる前にやるべきことがあります。特に人材開発や組織開発においては、そのことこそが重要であり、極端に言えば、そのことをやれば十分であって、上記の統計手法を用いる必要はないとすら言えます。
【母集団を二つに分けて比較する】
それは、「望ましい状態」の母集団と「望ましくない状態」の母集団とでは何が違うのか、突き合わせて比較検討することです。例えば、社員意識調査のアンケート結果データを分析する場合であれは、「モチベーションが高い組織」と「モチベーションが低い組織」とに母集団を分けて、それぞれの平均点集計結果を突き合わせて、「どの項目で差が開いているのか」を精査することです。例えば、次のような項目のどれにおいて特に差が開いているか、ということを見るのです。
・自身の成長実感
・チームワークの実感
・上司への信頼
・経営陣への信頼
・自身の健康状態
・・・・
「差が大きく開いている項目」こそが、「影響力の大きい項目」すなわち「梃入れすべき項目」の候補であると言えます。重回帰分析を用いて分析したとしても、同様の結論が導かれる場合が多いでしょう。そして、重要なことは、「二つの母集団の違いを精査したところ、この項目で差が開いています」というプレゼンの方が、「重回帰分析を行ったところ、この項目の影響力が大きくなっています」というプレゼンよりも、圧倒的にわかりやすく、分析結果への実感を得ていただきやすい、ということです。シンプルな分析の方が、認知へのインパクトは大きいのです。
ただし、ここで注意しなければならないことは、単純にこの方法を適用するだけであると、「もともと回答の幅がばらつきがち」な項目において差が大きく出がち、ということです。たとえば、「上司への信頼」の回答が1点から5点まで大きくばらつくのに対して、「経営陣への信頼」の回答は2点から4点までの間に概ね収まるような場合、「上司への信頼の差」の影響力の方が大きく評価され、「上司のあり方こそが重要です」という結論が導かれがちです。しかし、この結論は正確ではありません。この場合、元データに「標準化」という手を加え、「回答の幅のばらつきの大きさ」を揃えてからこの方法を用いることが正確な方法です。(ただしプレゼンでは、わかりやすさを損なわないように、「標準化の手順もきちんと踏みました」とだけ言っておけば十分でしょう。)
もう一つ注意しなければならないことは、「そもそもこの僅かな差の大きさに意味があるのか」ということに答えられるようにしておく、ということです。そのためには、「誤差」の考え方を用いて、「この差はたまたまの差(誤差の範囲)ではない有意な差である」、逆に「この程度の差は誤差の範囲なので無視してかまわない」ということを説明できるようにしておく必要があります。(これもプレゼンでは、「誤差の範囲の差は取り上げません」とだけ言っておけば十分でしょう。)
【シンプルな分析手法の意義】
いずれにせよ、2つの母集団に分けて違いが大きい要素に着目する、という手法は、統計分析手法として圧倒的にわかりやすく、手順も簡単です。
そして、手順が簡単ということは、すばやく沢山の検討ができる、ということを意味します。例えば、
・高業績者と低業績者の違い
を精査したい場合、母集団をさらに切り分けながら、
・(男性の)高業績者と低業績者の違い
・(女性の)高業績者と低業績者の違い
・(営業部門の)高業績者と低業績者の違い
・(製造部門の)高業績者と低業績者の違い
・・・・
と展開していくことができます。(重回帰分析を用いるべき理由と関連する「交絡因子」の影響も、この過程で見出すことができます。)
組織の分析において、沢山の切り口(母集団の分け方)で分析を行うことの価値は、一つの切り口に留まって分析の精度を追求することの価値よりも、圧倒的に大きいことは言うまでもありません。人材開発や組織開発におけるデータ分析の大きな目的は、多様な人々からなる集団を理解し、どこに梃入れするべきか、施策の優先順位を決めることにあるのですから。
南雲道朋