現時点における、360度フィードバックに関する最も網羅的で詳しい教科書は、次のものであると考えられます。2000年に刊行された
『The Handbook of Multisource Feedback』を内容・形式ともに踏襲しつつ、360度フィードバックがますます人材戦略の重要なパーツとして広汎な局面で用いられるようになっている現状と、そこにおける論点を炙り出し、トピックごとに適した専門家が突っ込んだ論考を行っています。
この2019年度版教科書の特徴は、現在の360度フィードバックのテーマを「戦略的360フィードバック」と総括し、その特徴を次のように整理し、これらの特徴に焦点を当てて論点を改めて体系化し、論述を深めていることです。
- コンテンツが、組織の戦略と価値観から導き出されており、その組織独自のものである。
- プロセスは、その結果を組織のリーダーに関する意思決定に使用できるよう、十分な信頼性・妥当性が確保できるように設計、実装されている。
- リーダーシップ開発、パフォーマンス・マネジメント、異動ローテーション、後継者計画、ハイポテンシャル人材育成プロセスといった、重要なタレントマネジメントおよび育成プロセスと統合されている。
- 対象者が包摂的である。すなわち、対象組織ユニット(会社全体、部門、場所、機能、レベル等)の全リーダーやマネージャーを対象とする。
目次構成すなわち論点の構成は、次のようになっています。
序章
1. 戦略的360度フィードバックハンドブックの紹介と概要
2. 戦略的360フィードバックとは何か?
第一章 意思決定のための360度フィードバック
3. 360度フィードバックをパフォーマンス評価に使用するにあたっての、要素別のベストプラクティス
4. 360度フィードバックをパフォーマンス評価に使用するにあたっての、長年の論点
5. 360度フィードバックをパフォーマンス・マネジメントに用いるにあたっての、技術革新
6. タレントマネジメントのための戦略的360度フィードバック
7. 役員レベルでの戦略的タレント開発のための、360度フィードバック
第二章 人材開発のための360度フィードバック
8. リーダーシップ開発のための360度フィードバック
9. 育成目的の360度フィードバックを、タレントマネジメント目的に位置づけ直す
10. 戦略的360度フィードバックを用いたチーム開発(お互いから学ぶ)
11. 洞察から行動変化へ(育成目的の360度フィードバックの真の効果)
12. リーダーシップ開発における、360度フィードバックとパーソナリティアセスメントの統合利用
13. 組織開発のための戦略的360度フィードバック
第三章 360度フィードバックの方法論と測定の内容
14. 戦略的360度フィードバックプロセスの妥当性を左右する要因
15. 「評価者の評価精度」をいかに高めるか?
16. 評価者間の評価の一致について:なぜ同一人物の評価が評価者によって異なるのか?
17. 360度フィードバックの結果は、未来を予測するものか、過去を評価するものか?
第四章 組織における応用例(企業事例)
18. 育成目的の360度フィードバックが、評価目的でも使われるようになるまでの道程
19. 360度フィードバックを、役員育成プログラムの設計にあたって活かす
20. 対象者と仕事上関わりを持つ人へのインタビューを用いたフィードバック
21. 360度フィードバックによる、経営トップチームの後継者リスクの軽減
22. 戦略的360フィードバックと、アセスメント等の他プログラムとの統合
23. チーム360度フィードバックを活用して、ビジネス変革を全社的に推進する
24. 360度フィードバックを活用したタレントの棚卸: どのような種類のタレントを組織内に有しているか?
第五章 重要かつ新たなトピックス
25. 360度フィードバック vs. 他形式のフィードバック(ノーレイティング、クラウドソースフィードバック等)
26. 360度フィードバックと、ジェンダーやダイバーシティ
27. 360度フィードバックデータからより多くの洞察を得るためのアナリティクス活用
28. 360度フィードバックの倫理的側面
29. 360度フィードバックの法的側面
30. 360度フィードバックを職種形成のために用いる:30年間のHRコンピテンシー研究から学んだこと
31. 当ハンドブックのテーマの振り返り、今後の展望、所感