360度フィードバック(多面フィードバック、多面評価)に関する、最も包括的な教科書は、過去20年間近く、2000年に刊行された次のものであったと考えられます。
本書の改訂版にあたる書籍が2019年に刊行されており、それについては次回紹介しますが、それは本書を土台にしてその応用となる「360度フィードバックの戦略的な活用」に焦点を当てたもので、2000年に刊行された本書は決して役割を終えたわけではない、としています。実際、360度フィードバックそのものの設計・運用については、本書の方がよりバランスよくまとめられているため、2019年版を紹介する前に、2000年版となる本書で扱われている内容について紹介します。
本書で最初に提示されている、下図に示す「多面フィードバックのプロセスモデル」は、360度フィードバックプロジェクトを進める上での検討・実施事項をうまくまとめており、関係者で共に参照するモデルとして、優れています。
上記モデルを踏まえ、本書の目次構成は下記のようになっており、それはそのまま、検討のチェックリストとして使えます。それに加えて、最終章ではチェックリストとして、「多面フィードバックを意思決定に使用する場合のガイドライン」がまとめられています。
パート1:多面フィードバックの方法論
1. 多面フィードバックのプロセスモデル
2. 多面フィードバックの方法論の歴史
3. 多面フィードバックの組織の受入態勢(レディネス)
4. 多面フィードバックのコンテンツと組織ニーズとのリンク
5. 多面フィードバックのツールの選択
6. ツールの実装設計
7. 評価者の選定(フィードバックの源)
8. 多面評価者の評価品質の改善
9. 多面評価の信頼性、妥当性、有意味性
10. プロジェクト成功に向けたベンダーとの協力
11. 多面フィードバックプログラム運用のWebテクノロジー
12. 多面フィードバック・レポート:コンテンツ、フォーマットおよび分析のレベル
13. 多面フィードバックにおける評価者間の一致についての理解
14. 多面のフィードバック受けた対象者の成長を支援するツールとリソース
15. 多面フィードバックへの反応の把握
16. 多面フィードバックの効果の測定
パート2:多面フィードバックの応用
17. 経営幹部育成
18. チーム開発
19. 組織開発と変革
20. パフォーマンス・マネジメント
21. 人事意思決定
22. 行動変化のモデル
23. 大論争:多面フィードバックは人事管理に使ってよいか、それとも育成目的だけにすべきか
パート3:多面フィードバックの「システム」に働く諸力
24. シアーズにおける、多面フィードバックの導入と維持
25. 動的な環境における、多面フィードバックの進化
26. 組織統合における、多面フィードバックの機能
27. 異文化をまたがる、多面フィードバックの課題
28. 多面フィードバックの法的および倫理的問題
29. 多面フィードバックの導入成功の障害に立ち向かう
30. 成功と継続:多面フィードバックのシステム的な見方
付録:多面フィードバックを意思決定に使用する場合のガイドライン
ただ惜しむらくは、360度フィードバックの目的や対象や経緯によってコンテンツやプロセスの選択肢は様々であることを反映し、多くの専門家がそれぞれの分担トピックを掘り下げる形で書かれており、文章量も極めて多く、そのままマニュアルとして使える体裁にはなっていません。しかし議論されるべきことはされ尽くされているため、今用いている仕組みや提案を受けている仕組みをより広く深い視点で検討し、良いものにする上で役立つでしょう。