• データ主導の人材開発・組織開発

キャリアラダーとしての”十住心”

これを書いている経緯

前回(経営管理チーム像としての立体曼荼羅)の続きとして、「企業人のキャリアラダー」と「修行の10段階論」とを関連づける考察を行ってみたい。「主任になったら《声聞》、専門職は《縁覚》、中間管理職は《菩薩》、執行役員以上は《如来》を自覚しよう」というような議論が成り立つのではないかという仮説を立てたのだった。昭和のサラリーマン道とは違う、しかし、サラリーマン道があっていいと思うのである。

空海は、『十住心論』や『秘蔵宝鑰(ひぞうほうやく)』において次の10段階の整理を行っている(ウィキペディア)。

  1. 異生羝羊心 – 煩悩にまみれた心
  2. 愚童持斎心 – 道徳の目覚め・儒教的境地
  3. 嬰童無畏心 – 超俗志向・インド哲学、老荘思想の境地
  4. 唯蘊無我心 – 小乗仏教のうち声聞の境地
  5. 抜業因種心 – 小乗仏教のうち縁覚の境地
  6. 他縁大乗心 – 大乗仏教のうち唯識・法相宗の境地
  7. 覚心不生心 – 大乗仏教のうち中観・三論宗の境地
  8. 一道無為心(如実知自心・空性無境心) – 大乗仏教のうち天台宗の境地
  9. 極無自性心 – 大乗仏教のうち華厳宗の境地
  10. 秘密荘厳心 – 真言密教の境地

今回はこの10段階と「企業人のキャリアラダー」との対応関係をつけてみたいのである。また、前回、「経営管理チーム」と「立体曼荼羅」との対応関係をつけてみたが、今回はさらにそこに10段階も対応づけたい。

 

結論

結論から言うと、下図のような整理が最も納まりがよく、かつ、一定の深みもあって洞察の源泉にもなるだろう。中間管理職は《天》の座にとどまっていただき、執行役員以上を《如来》《菩薩》《明王》の座に配するのがよいだろう。執行役員以上は、自身や部門の利害という「煩悩」からは完全に離れて、常に全社視点に立つ、という意味合いとなる。

そして次のように対応づける。

  • CHRO:《菩薩》 覚心不生心(般若の世界)
  • COO:《如来》 一道無為心(法華の世界)
  • CFO:《明王》 極無自性心(華厳の世界)
  • CEO:《大日》 秘密荘厳心

 

論点(明王の位置づけ)

ここで特に議論になりそうな点は、CFOを《明王》に対応づけ、かつ《明王》を「極無自性心(華厳の世界)」に対応づけている点であろう。《明王》の忿怒の表情、その激しさは、一般的にイメージされるCFOのキャラクターとも、無数の珠が無数の珠を無限に映し合う華麗な華厳の世界とも、異質なように見える。空海は《明王》についてはそれほど語っていないと言ってよいようである。また、《明王》は華厳経にも法華経にも登場しないと言ってよいようである(むしろその後にヒンドゥーの神が転じてきたようである)。しかし、空海は立体曼荼羅の中で《明王》に大日如来の右手の座を与えたのであり、《明王》を重視していることも明らかである。この立体曼荼羅における《明王》の重要性と、空海の主な思想である十住心論(10段階論)とをどう関連づけたらよいか、ということも考える必要がある。

私がCFOをあえて明王に対応づけたのは、CFOが財務やサプライチェーンの大局を(華厳のように)俯瞰しながら大胆なリストラクチャリングや大胆なコストカット等に臨むからで、また、リスク管理部門も財務部門に隣接すると言えるからである。そのような観点から説得力があるのではないかと、ChatGPT(o1モデル)に投げかけてみたところ、次のように賛成してくれた。そう、このようなまとめでよいであろう。


(ChatGPTの回答)

なるほど、CFOを明王に対応づけた理由として、

  1. 財務やサプライチェーンの大局を俯瞰しつつ、
  2. 大胆なリストラクチャリングやコストカットといった“切り込み”役を担い、
  3. リスク管理機能が財務部門に隣接している(監査・コンプライアンスを含む)
    という点を挙げておられるわけですね。

これらの観点から見れば、忿怒尊(明王)の“激しさ”が、企業財務の厳格な統制・構造改革を断行する力に重ねられていると言えます。実際、CFO は企業の資金繰りやコスト管理に責任をもち、組織の方向性を大きく変えねばならない場合に“痛みを伴う施策”を遂行する役回りがしばしば求められます。これを明王の「煩悩を断ずる」激しさに例えるのは、たしかに納得感があります。

以下、いくつか補足的なポイントを挙げてみます。

1. 明王(忿怒尊)の象徴的特徴とCFOの共通点

  1. 強制力・降伏力
    • 明王は「煩悩や悪を力ずくで降伏させる」役割を担い、忿怒の表情で圧倒的な威力を見せます。
    • CFO が行う「構造改革」や「コストカット」は、ときに社内から強い抵抗や痛みを伴うため、断固たる強制力を発揮する必要がある。
  2. リスク管理・危機対応
    • 明王は外部・内部の障害(悪魔・悪縁)を焼き尽くし、組織(教団)を守る存在。
    • CFO は財務面のリスク管理や資金ショート危機への対応、投資リスクの見極めなど、危機に際して大ナタを振るう立場である。
    • 監査やコンプライアンス部門が財務部門直下に置かれる企業も多く、**“組織防衛機能”**と隣接するイメージは明王的とも言える。
  3. “忿怒”による慈悲
    • 明王の忿怒相は、表面的には恐ろしいが、根本的には衆生を救済するための方便(慈悲)と解釈される。
    • CFO のリストラクチャリングやコスト削減も、表面的には社員や部署にとって厳しい施策だが、会社全体を長期的に生き延びさせ、最終的に従業員を守る(慈悲)ために必要な手段と捉えられる。

2. 企業内の“激しさ”との対照:菩薩との違い

  • 菩薩は「慈悲のソフトさ」「相手への共感」を前面に出すイメージが強く、人材育成や社内コミュニケーションの改善などのスムーズさを担うと考えやすい。
  • これに対し、明王の“厳しさ・刈り取り感”は、CFO の仕事の中でもコスト削減や再編など、ソフトさよりも“冷徹な判断”が際立つ局面にぴったり重なります。

3. 今後の展開:さらなる具体性

もし、この「CFO=明王」の比喩を発展させるなら、たとえば

  • 不動明王 → キャッシュフロー分析における不動の視点を持ち、「変動相場の波にも揺るがない安定」
  • 降三世明王 → 3つの主要コスト項目を容赦なく切り落とす(笑)
  • 大威徳明王 → 巨大な投資リスクに威圧感をもって臨み、会社を安全に導く
    …のように、各明王の特徴を財務施策のどこに当てはめるか、といった具体的なイメージを遊び心で設計するのも面白いかもしれません。

(ChatGPTの回答終わり)

まとめ

ChatGPTに応援してもらう等して検討プロセスは端折ったが、これで「企業人のキャリアラダー」と「十住心(10段階)」と「立体曼荼羅」とを統合的に理解する目処が立った。この理解の仕方に普遍性があるか、すなわち誰が考えても同じようになるか、ということもさることながら、自身の内面で対応づくか、世界観として一貫しているかどうかがまずは大切だと思われるので、まずはご笑覧いただければ幸いである。