【競争か平等かの前に】
企業人事の中心的な論点は常に、「競争」と「結果平等」(=年功序列)とのバランスをどのようにとるか、ということでした。それは、いかに個人の力を引き出しながら、組織の分断を防ぐか、ということであるとも言えます。あるいは、いかに短期的なモチベーションを高めながら、長期的な(数十年にもわたる)勤続意欲をも維持するか、ということであるとも言えます。
実は、企業人事だけでなく、社会の中心的な論点も常にそうであったと言えるかもしれません。競争重視か平等重視か、ということは、それくらい重要な、論点中の論点、と言うべきものですが、しかし、競争と平等のバランスをどうとるか、という論点よりも、そもそもどのような競争をしているのか、競争のルールはどのようなものなのか、ということの方が先に論じられるべき、はるかに実りの多い論点であるように思われます。
【社員間レースはマラソンか短距離競争の集積か】
『女性が活躍する会社』(大久保幸夫、石原直子)(日経文庫)という本の中で石原氏は、男性が女性に比べて有利になる企業内の競争ルールを解き明かしながら、特に、新入社員が管理職になるまでの15年前後の社員間競争が、「15年間続くフルマラソン(途中で歩いたら即脱落)」なのか、「2年ごとに異なる試合会場で行われる短距離競争」の集積なのか、ということを問題にしています。フルマラソンとして人事制度を設計するならば、女性が出産・育児をこなす時期を想定した時、参加は事実上不可能になってしまいかねませんが、短距離競争の集積として設計するならば、決定的なハンディになることなく参加できるわけです。
女性だけでなく、学問に打ち込んだ人、放浪の時期を経た人、あるいは様々な職業を経験した人など、様々な特徴を持つ人にとって、「2年毎のモジュール組み合わせ型」のキャリアパスは、企業社会で同僚と伍していく上での福音になることでありましょう。そして、企業としても、そのようなキャリアパスの上に、ダイバーシティを進めることができることでしょう。
【いくつの種目を用意するか】
さらに、「短距離競争」として、様々な種目を用意することで、社員の潜在能力が活かされる可能性は広がることは明白です。つまり、ダイバーシティを進めるためには、ダイバーシティそのものよりも、前提となる競争ルールを見直すことが鍵であるということです。
【もう失望は生まない】
優秀人材の採用、中高年の処遇、コア人材の育成等、人事の課題は尽きませんが、まず自分達の組織のルールを、明文化されているもの/されていないもの含めて明るみに出し、振り返ることが重要であると感じます。
社員が自分の想いを組織のルールとして想定し、実はそれとは異なるルールで評価されているのにそれに気付かず、あるいは無意識のうちにそのことを拒否し、そして失望することは、なお多いのです。そのような状態をなくすことから変革は始まります。
南雲 道朋