「目標による管理(Management By Objectives)」は、社員一人ひとりに自分の目標を立てさせることが本来の趣旨です。しかし、目標とは本来、経営側から、経営目標に従って客観的に配分されるべきものである筈です。個々人に目標を立てさせるならば、「いかに達成し易い目標を、さも難しい目標であるかのように、会社に認めさせるか」という、個人と会社のせめぎ合いのゲームになってしまいます。
目標設定の場は、経営企画部が経営管理の精華を示すべき場でもあります。事業別、商品別、顧客別、地域別にどのように利益が積み上げられるべきか・・・。しかし、経営企画部がどこまで現場のビジネスの状況をわかっているのか、という現場の声には一理あります。そこに、トップダウンではなくボトムアップで目標を立てるべき理由が出てきます。
「目標による管理」の概念を普及させたドラッカーは、「コミュニケーションアップ」ということを言っています。「マネージャー達は自動的に共通のゴールに向かうわけではない。上意下達では全くもって十分ではない。企業が一体になるためには、その逆の、「コミュニケーションアップ」が必要である」・・・と。
目標の大枠は経営から示すけれども、それをどのようにして達成するかは現場マネージャーの裁量とし、経営と現場マネージャーとの間で、そして現場マネージャーと個々人との間で「握る」ということなどは、まさにそのような文脈に位置づけられるでしょう。
ドラッカーは、「目標による管理」は「哲学の名に値する」とも言っています。数字を「握る」ことは哲学・・・とまでは、しかしながら、言えなさそうです。
「目標による管理」の大きな意義は、社員のモチベーションを高めることにあります。そしてそこにはどうやら、「自分で目標を立てる形式を経ることで目標へのオーナーシップを持たせる」ということ以上のものがあります。あるとき、「モチベーション・マネジメント」のお題をいただき、社員のモチベーション源泉の多様性に焦点を当てて毎年の研修の企画・運営を行う中で、そのことを益々感じるようになりました。
職業人生の意味やテーマは、人によって、次のように様々だからです。
だから、たとえ同じ仕事に従事していても、その仕事の一人ひとりにとっての意味は様々。その人にとっての意味に合った形で仕事の目標を設定しないと、意味がある目標にはならないのです。
例えば、「ある地域向けの売上を2倍にしよう」ということの意味は、次のように人によって様々なものたりえます。
そのような、人それぞれにとっての意味に沿って一人ひとりの目標が設定されるならば、単に一人ひとりにこれまでの2倍の目標を設定させてチャレンジさせる、ということをはるかに超える、組織としての価値が生まれてきます。メンバーの中から、「地域の専門家」「アイデアマン」「挑戦者」「サービス精神旺盛なスタッフ」「大所帯のマネジメントが得意なマネージャー」を見出し、ミッションを与え、組み合わせることで、楽しくも効果的な組織活動がスタートするでしょう。それこそが組織の醍醐味です。
そして、社員の素質や指向性の多様性に合わせて、一人ひとりにとってワクワク感が出るような意味ある目標設定に成功するということは、経営にとって最も高潔な、最終的な目標たりえることになるでしょう。その時には、「目標による管理」とは「目標によるダイバーシティ」ということでもあり、それは「哲学の名に値する」筈です。
南雲 道朋