昇進・昇格者を決めるための客観的で納得性のある基準を作れないものか、という話は常にいただく。しかし、そのような基準ができるのであれば、リーダーは要らないことになってしまう。
逆説的ではあるが、基準が曖昧であるほどリーダーの求心力は高まる。誰が引き上げられ、誰が落とされるのか、上司は今私に何を期待しているのか・・・メンバーは上司の発する一言一言の意味、そして顔色を読もうとするようになるからだ。変化する環境下では、予め文書化された基準ではなく、リーダーの今の期待にこそメンバーの注意が向けられるようにすることが望ましい。
しかし、それが行き過ぎると恐怖政治になる。メンバーは燃え尽きてしまう。何も考えないようになる。チームワークも生まれない。創意工夫も生まれない。そして組織は長期的に成功しない。
どこにバランスの鍵があるのか。
ドナルド・トランプ米大統領がかつて主演・プロデュースした「The Apprentice(=徒弟)」というリアリティ番組がある。トランプが事業の後継者作りに向けて、グループ会社の社長を全米から公募し、採用する過程をテレビ番組化したものだ。DVDになっているが、サラリーマンのサバイバルレース、社長レースに似て、これが面白い。
2万5千人の応募者の中から選ばれた16名が2つのチームに分けられ、毎週マンハッタンの街に出て、(例えば、与えられたリストの品物を最も安く調達するといった)ビジネス課題を与えられて勝負し、負けたチームの中から一人がクビになる、という方式で、3ヶ月間かけて最後に残った一人が社長として雇われる。
毎週最後にトランプの口から発せられる、「You are fired = 君はクビだ」という台詞が大人気の決め台詞。その台詞は、人事制度と人事スタッフにお膳立てされた結果を伝えるものではなく、トランプの観察と思考と決断を伝えるものであるからこそ重みがあり、メッセージがあり、人気がある。
一方このショーは、全米から集まった多様なメンバー16名のショーでもある。だから豊富な内容がある。多様なメンバーとトランプが、知力・体力・魅力・経験のすべてを賭けて、落とすメンバーを決める。そのプロセスに価値がある。
要は、メンバーとリーダーとスタッフのコラボレーションということだ。誰を上げ、誰を落とすか、それぞれが力を尽くして決められるような場とプロセスを作ることだ。
南雲 道朋